音の科学:振動、音の高さ、音色
弦をはじく、太鼓をたたく、歌う。どれも同じことに行きつきます。何かがふるえているのです。このレッスンでは、少しだけ科学を使って、音に高い・低いがあるわけ、オクターブが同じ音に聞こえるわけ、同じ音でもピアノとギターでちがって聞こえるわけ、そしてチューニングのときに聞こえる「ウォンウォン」という音の正体を説明します。
このレッスンの内容

音は、何かがふるえていること
どの音も、何かが振動すること、つまりとても速く行ったり来たりすることから始まります。ギターの弦、太鼓の皮、フルートの中の空気、のどの声帯などです。振動はとなりの空気を押し、その空気がさらに次の空気を押して、小さな「ぎゅっ」と「ふわっ」の波が広がっていきます。池にできる波紋のようなものです。
波が耳に届くと、鼓膜が同じパターンでふるえ、脳が音を聞き取ります。20 °C の空気の中では、波は1秒間に約343メートル進みます。水の中では4倍以上の速さです。宇宙空間には音を運ぶ空気がないので、音はまったく伝わりません。
やってみよう:のどの前にそっと指をあてて、ハミングしてみましょう。指に感じるびりびりが、声をつくっている振動です。
音の高さ:1秒間に何回?
どれくらい速く振動するかで、音の高さが決まります。1秒間の振動の回数を「周波数」といい、ヘルツ(Hz)で表します。科学者ハインリッヒ・ヘルツにちなんだ単位です。1秒間に440回振動するのが、「音名」のレッスンで出てきた A4 です。1秒間に110回なら、2オクターブ下の A2 です。
速いほど高く、遅いほど低くなります。ピアノのいちばん低い鍵盤 A0 は 27.5 Hz、いちばん高い C8 は約 4,186 Hz です。若い耳は、だいたい 20 から 20,000 Hz まで聞こえます。聞こえる上限はふつう年齢とともに下がり、多くの大人は約 16,000 Hz までです。
- 1秒間に110、220、440、880回振動する4つの A を、純粋なサイン波で。
オクターブは2倍
4つの A をもう一度聴いてみましょう。どれも、1つ前の A のちょうど2倍の速さで振動しています。これが「音名」のレッスンで出てきたオクターブのひみつです。1オクターブ離れた2つの音は、周波数が2対1なので、とてもよく溶け合い、高い音と低い音の「同じ音」に聞こえるのです。
ほかの簡単な比もなめらかに聞こえます。2つの周波数が3対2、たとえば 220 Hz と 330 Hz のときは、完全5度が聞こえます。おおまかに言えば、比が簡単なほど2つの波がそろうことが多く、いっしょに鳴らしたときに落ち着いて聞こえます。
- 220 Hz と 440 Hz を、1音ずつ、それから同時に。
- 220 Hz と 330 Hz を、1音ずつ、それから同時に。
なぜ A=440 なの?
いっしょに演奏するには、ある音の高さをみんなで決めておく必要があります。今では世界のほとんどの場所で、真ん中のドの上の A を 440 Hz に合わせます。昔からそうだったわけではありません。何百年ものあいだ、音の高さは場所によってちがい、その土地のオルガンに合わせることがよくありました。1859年、フランスは法律で A を 435 Hz に決めました。
1939年、ロンドンで開かれた国際会議が 440 Hz をすすめました。国際標準化機構(ISO)は1955年にこれを規格として採用し、1975年に ISO 16 として確認しました。それでも、全員がぴったり 440 を使っているわけではありません。多くのオーケストラは少し高め、だいたい 440 から 444 Hz のあいだに合わせます。
- 今の A、次に1859年のフランスの A、最後に両方を同時に。
倍音:ピアノとギターの音がちがうわけ
本物の楽器は、1つの速さだけで振動するわけではありません。弦は全体でふるえると同時に、2分の1、3分の1、4分の1……に分かれてもふるえています。だから 110 Hz の音には、もっと小さな 220、330、440、550 Hz……の音もふくまれています。どれもいちばん低い音の整数倍です。このなかまを「倍音列」といい、上のほうの音を「倍音」といいます。いちばん低い音(基音)が、音の高さとして聞こえます。
楽器ごとに、大きい倍音と小さい倍音の混ざり方がちがい、音の出だしや消え方もちがいます。その組み合わせが「音色」です。だから、ピアノとギターが同じ A を同じ大きさで弾いても、ちがって聞こえるのです。サイン波には倍音がまったくないので、とても素朴でなめらかに聞こえます。
下の「倍音のはしご」は、110 Hz の倍音列の最初の8つを鳴らします。いくつかはピアノの鍵盤から少しずれています。7番目は、鍵盤の G より半音の約3分の1低い音です。
- 110 Hz の最初の8つの倍音を、1つずつ。
- 220 Hz から始めて、440、660、880 Hz を足すと、音が豊かになります。
- 倍音のない、純粋なサイン波の A4。
- 同じ A4 をピアノで。
平均律:12の同じ段
すべての音程をいちばん簡単な比に合わせると、きれいに聞こえる調もあれば、ひどく音がずれて聞こえる調も出てきます。今ふつうに使われている答えが「十二平均律」です。オクターブを12のまったく同じ半音に分けます。半音1つ上がるごとに周波数は2の12乗根、約 1.0595 倍になります。これを12回くり返すと、ちょうど2倍、つまりオクターブになります。
よいところは、どの調も同じように使えて、音楽がどの調へも移れることです。そのかわり、ほとんどの音程が簡単な比から少しだけずれます。音楽家はこの小さなずれを「セント」ではかります。半音1つが100セントです。平均律の5度は純正な 3:2 の5度より約2セントせまいだけですが、平均律の長3度は純正な 5:4 の3度より約14セント広くなります。歌い手や弦楽器の奏者は、1音1音を調整できるので、純正な響きに寄せることがよくあります。ちがいがどれくらいはっきり聞こえるかは、人によってちがいます。
十二平均律は、20世紀から西洋音楽のおもな調律になっています。それ以前はいくつもの調律が使われていて、鍵盤楽器の奏者が平均律に移っていったのは少しずつでした。
- 今のピアノと同じ C と E:かすかなゆらぎを聴いてみましょう。
- 同じ長3度で E を14セント下げると、なめらかで落ち着いた響きに。
うなり:チューニングの「ウォンウォン」
2つの音がとても近いけれど同じではないとき、2つの波はそろったりずれたりします。そろうと音が大きくなり、打ち消し合うと小さくなるので、規則正しい「ウォン、ウォン、ウォン」が聞こえます。これを「うなり」といい、1秒間のうなりの回数は2つの周波数の差と同じです。440 Hz と 442 Hz なら、1秒間に2回うなります。
うなりは、チューニングのいちばんの味方です。弦を正しい音に近づけるほど、うなりはゆっくりになり、うなりが消えたら2つの音は合っています。ピアノの調律師は、うなりを数えて音程を合わせることさえあります。2つの音が大きく離れると、うなりは速すぎて数えられなくなり、ざらざら、びりびりした音に変わります。
- 1秒間に2回のうなり。
- 1秒間に5回のうなり:もっと速い「ウォンウォン」。
- 2つ目の音が 440 Hz に近づいていき、うなりが止まります。
やってみよう:2つの楽器で同じ音を弾くか、長くのばした音に合わせて歌い、うなりを聴いてみましょう。うなりがゆっくりになって消えるまで、少しずつ調整します。
ピアノの音:Salamander Grand Piano(Alexander Holm、CC BY 3.0)。